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コラム

2014年04日02日 up

第4回東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 意見陳述

高木学校 崎山比早子

 私は国会事故調査委員として福島第一原発事故原因調査に参加させていただきました。ここでは2012年7月に提出され調査報告書をベースに発言させて頂きます。

 国会事故報告の結論にありますように福島原発事故はまだ継続しています。しかも増え続ける汚染水、労働者被ばく線量の増加など多くの問題を抱え状況は当時よりも深刻になっており、収拾の目途はたっていません。

 調査によって明らかになったことは、電気事業者を監督すべき立場にあった規制当局がその任務を果たしておらず、事業者は歴代の規制当局に規制の先送り、規制を緩めるよう強く圧力をかけていたことです。それが成功して安全対策がとられず脆弱性を抱えたまま3.11を迎えたという面で、この事故は人災であったと言えます。関係者に共通していたのは、およそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり、国民の安全を最優先とせず、組織の利益を最優先とするマインドセット、思い込みでした。

 住民の被害の状況については未だ先の見えない避難所生活が続いています。その原因は「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意志の欠如と健康を守る対策の遅れ、被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れ、住民の視点を考えない情報公開にあると結論しました。この状況は報告書提出後1年半以上経った今日に至っても変わっていません。

 放射線による健康影響に関しては報告書の4.4にあります。低線量被ばくによる晩発障害に関しては一定線量以下ではリスクがないというしきい値はなく、リスクは線量に比例して増えるとするしきい値なし直線モデル、LNTモデル、が国際的な合意事項となっています。放射線感受性は年令や個人によって異なることから、弱者を考慮した対策が必要です。放射線に安全量が無いと言うことは放射線の持つエネルギーの大きさが生体を形成している分子の結合エネルギーの大きさの数万倍にもなるため、放射線の飛跡が1本通ってもDNA等の分子に複雑損傷を起こす可能性があるためです。

 政府関係者が100mSv以下ではリスクがあると科学的に証明されていないという場合、引用されるのが広島・長崎の寿命調査です。しかし、その14報ではLNTモデルが実際のデータに一番よくあうこと、線量あたりのリスクは200mGy以下の方が全線領域のリスクよりも高いのです。このことから著者らは放射線が安全なのはゼロの時のみだと結論しています。政府が帰還の目途にしている20mSvもリスクがないとはいえません。しかも20mSvというのは年間の線量であり、5年住めば100mSvになるのです。
 また非がん性疾患も線量に応じて増加することを示しています。線量と疾患の関係は被ばく後15年ではまだハッキリせず、53年経ってより良く分かってきました。これを考えますと福島の被ばく影響、がん及び非がん性の疾患に関しては早急に結論を出さずこれから長い期間、調べなければならないと考えます。

 次にグローバー勧告について触れます。国連人権理事会の特別報告者アナンド・グローバー氏は福島原発事故による健康被害に関する勧告を2013年5月に国連に提出しました。その中で日本政府に対し、1mSv以上の線量域の住民に対して健康管理調査をするべきであること、子どもの健康検査を甲状腺検査に限定せず、すべての健康への影響の可能性を考慮して検査する等の勧告を行いました。3月20日グローバー氏を招いた院内集会が行われましたが、その席で環境省桐生参事官は「広島・長崎の寿命調査では100mSv以下は健康に影響が認められていない、なぜ1mSvを持ち出すのか根拠をききたい」と発言されました。広島・長崎の寿命調査では上に述べたように、放射線に安全量は無いと書いてあるので、これにはグローバー氏も驚いたとおっしゃっていました。参事官によればこのような情報を提供したのは放影研の先生だということです。
 もしこれが事実であるとすれば放射線専門家は一般国民ばかりか行政官に対してすら正確な情報を提供していないことになります。そして、そのあやまった「100mSv以下は健康に影響が認められていない」という理解に基づいて、政府はグローバー勧告に対して1mSvというのは科学的な根拠が無いと繰り返し反論したのでしょう。その上そのような理解の上で健康健診や帰還政策が決定されているわけですから、これは国民にとっても大変な災厄です。

 今年2月に政府が発行した『放射線リスクに関する基礎的情報』にもその政府の見解が反映されています。この冊子の35ページにある確率的影響にかんする図です。放射線による発がんは自然発生率に上乗せされるべきもので、この図は誤っています。この冊子の作成に対し助言を与えた専門家・有識者56人の中には元、現ICRP委員をはじめ大学教授、放医研研究者等が名を連ねています。専門家と言われる方々は、もし何らかの働きかけがあったとしても、正確な情報を提供するのが社会的責務ではないでしょうか。

 次に事故調報告書の5.2.3のp520-524は電気事業者連合会(電事連)が放射線管理に関して、規制当局、放射線専門家に対し働きかけを行っている文書を、電事連資料から抜粋したものです。電事連は規制が厳しくならないよう、緩和されるように規制当局、放射線専門家に働きかけを行いそれに成功していました。特にICRP委員の国際会議に関わる旅費等を長年に渡って放射線影響協会を通じて渡していました。その成果かどうかわかりませんが「ICRP2007年勧告等に対する電力の主張がすべて反映された」という記載があります。電事連は、研究分野に対しても規制が厳しくならないような研究を奨励していたことが明らかです。
 現在の社会状況はこの原発事故を起こした責任を問われるべき東電が何らの責任もとらず、その東電から利益供与を受けている専門家が、事故の被害者である県民、市民の健康管理のあり方などを決める審議会のメンバーになっているという異常な状態にあります。これはただされなければなりません。

 次に「子ども被災者支援法」の実施方針についての意見です。お配りしましたA3版の「健康診断比較表」をご覧になって下さい。これは色々なケースの被ばく者がどのような補償を受けているかを比較したものです。表からわかりますように、JCO事故では健診の対象者は1mSv以上を被ばくした人になっています。福島では年間1mSv以上でも補償の対象にはなっていません。公衆の被ばく線量限度を事故以前に戻し、それを超える所では、福島県外であってもグローバー勧告にあるように甲状腺検査ばかりで無くすべての健康への影響の可能性を検査するよう求める声は、千葉県野田市市長による要望書をはじめ、お配りしました支援法に対する多くのパブリックコメント及び要請を提出した自治体をプロットした全国地図にも現れています。これらは『年間放射線量が1ミリシーベルトを超える地域は、全て「支援対象地域」に指定すべき』であるとし、不安を抱えた住民が納得するような施策をして欲しいと要望しています。このような広い層からの要望に応え、福島県以外でも被ばく線量年間1mSv以上の地域の住民に対し健康に対する権利が保障されるよう強く要望する者です。更に現在の健診は福島県が主体となっているため不具合が多発しています。日本医師会の提案のように厚生労働省に一本化して体系的な健診体制を整えて下さい。

 ありがとうございました。


※本専門家会議の配布資料は下記リンク先から閲覧できます。
環境省_放射線健康管理 | 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議 | 第4回議事次第

※意見陳述の動画は下記リンク先から閲覧できます。
がんリスクめぐり激しく応酬〜健康管理のあり方会議 | OurPlanet-TV:特定非営利活動法人 アワープラネット・ティービー



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