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低線量被ばくトピックス

2009年10月06日 up

医療被ばくは職業被ばくの年間制限線量をも上回る

 米国の医学雑誌、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)にFazel R.等による「低線量電離放射線による医療被ばく」(1)と題する論文が発表され、2009年8月26日付のNew York Timesにも紹介された。
 米国では電離放射線を使う画像診断の増加によって、一般大衆の低線量被ばくが増えている。その線量を調べるために米国の代表的な保険会社5社で2005年から2007年の3年間に画像診断を受けた18歳から64歳までの952,420人についての蓄積実効線量を、性別、年齢別に推定した。
 この3年の調査期間中に655,613人(68.8%)は少なくとも1回の被ばくを伴う画像診断を受けていた。これを年齢別に見ると18歳から34歳まででは49.5%であるのに対し60歳から65歳まででは85.9%であった。3年間の蓄積線量は図に示すように幅広い分布を示している。被ばく線量別に見ると、中程度の被ばく(年間3mSv〜20mSv)を受けているのは1000人あたり193.8人、高い線量(20mSv〜50mSv)は1000人当たり18.6人、非常に高い線量(>50mSv)は1000人あたり9人であり、平均値は一人あたり年間2.4mSvとなる。この結果を米国の18歳から64歳までの人口に当てはめると、約400万人が年間20mSv を超える被ばくをしていることになる。職業被ばくの年間被ばく線量限度は、1年間に50mSvを超えず、5年間で100mSvを超えてはならないと決められている。この基準と比べると医療被ばくの大きさが理解できる。
 この論文自体ではこの被ばくによって何人ががんになるのか推定はしていない。しかし、ニューヨークタイムスによると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のRedberg R. 教授は数万人ががんになると計算している。


米国における男女別年間医療被ばく線量の分布
図:米国における男女別年間医療被ばく線量の分布

画像解析方法別被ばく線量と全被ばく線量に占める割合

 参考までにこの論文で採用した検査毎の実効線量の表を示しておく。
画像撮影20種類について被ばく線量と全被ばく線量に占める割合を方法毎に示したのが表である。心筋環流画像のみで全体の被ばく線量の22%を占め、腹部、骨盤、胸のCTでは約38%を占めている。CTと核医学検査を合わせると頻度としては21%であるが、線量は全体の75.4%に昇る。単純撮影は頻度では71.4%であるが線量にすると僅か10.6%となる。
注意すべきは年間 20mSvを超える被ばくを受けている50歳以下の割合は男性で30%、女性で40%に達するということである。これは若年者や女性の方が,がんリスクが高いことを考えると注意を要する。


表:撮影方法・部位別実効線量(上位20まで)※線量の単位:mSv 蓄積実効線量に寄与する撮影方法・部位(上位20まで)


 米国のある健康保険会社の調査によると、CTの使用ががんのリスクを高めることを知っていたのは、放射線科医の50%以下、緊急治療室の医師の9%以下であった。医療被ばくを低減するためにはリスクに対する教育が必要であると結論している。


【紹介者コメント】

 この論文に示された調査結果は限られた保険会社に入っている人を対象にしている。映画「シッコ」によると米国では保険に入れる人は経済的に恵まれている階層であり、保険が効くことによって医師も高額な検査を薦める傾向にあるという。従って、この論文に示す結果が必ずしもそのまま全米に敷衍できるとは限らないし、実行線量は個別に測ったわけではなく、平均的な値を使用したものであるので、正確とはいえないかもしれない。それでもこのような調査が行われることは、医療被ばくの現状を捕らえるために必要である。

 2004年にイギリスの医学雑誌The Lancetに掲載されたBerrington A等の論文(2)によればCT検査の線量を加味した米国の医療被ばくは日本の約1/4以下である。2004年の段階でも世界にあるCT機器の1/3が日本に集中しており、日本人の医療被ばく線量は突出して多かった。
 論文が発表されてショックを受けた日本の医療界の対応は、どのように被ばくを減らすかという議論には向かわず、「低線量は害がない、安心です」と市民を説得する努力に向けられたし、その傾向は今も変わっていない。そのため、Berrington等の論文発表以後医療被ばくは増えこそすれ減ってはいないと想像される。あれから5年以上、CTやマンモグラフィーの台数が増加したと考えられる今、日本人の医療被ばくはどの程度になっているのだろうか?日本でこそ、この論文のような調査が強く望まれるのである。(崎山比早子)

文献:
1) Fazel Reza et al. Exposure to low-dose ionizing radiation from medical imaging procedures. The New England Journal of Medicine, 361, 849-857, 2009.
2) Berrington A.G. & Darby S. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimate for the UK and 14 other countries. The Lancet, 363, 345-351, 2004.


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