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高木学校通信 第61号(2009年3月26日 発行)

<目次>


原子炉研安全ゼミ講演の報告

医療被ばく問題研究グループ 崎山比早子

 京都大学原子炉研の原子力安全問題ゼミで「医療被ばくのリスク」につい話す機会を頂けたことは大変幸せでした。原子力問題と医療被ばくは一見別個の事柄のように見えますが、放射線被ばくという点で共通した問題を抱えています。高木学校がこの5年間取り組んできたことを、反原発運動の活動家や科学者に聞いて頂けたのは有意義でした。当日のプログラム及び使用したパワーポイントなど詳しい内容は原子炉研のホームページに載っていますのでご覧下さい。

 私は高木学校の活動を簡単に紹介し、『受ける?受けない?エックス線 CT検査』に書いた「放射線の生物への影響」「無駄な被ばくを減らすには?」を主な話題としました。近年電離放射線の影響は分子レベルまで解明されるようになり、発がんのメカニズムも明らかになりつつあります。基礎的な研究成果が疫学的な調査結果を裏付けているとも言えます。これらを踏まえて国際的には「放射線には安全量は存在しない」という合意が成り立っています。しかし、文部科学省は「原子力政策を進めるために僅かな放射線を怖がらせないような」「放射能・放射線についての教育を強化」しようとしています。このような現状は原爆被爆国でありながら日本を世界でも類を見ない医療被ばく大国にし、被ばく低減のための対策を進めにくくしている大きな原因の一つだと考えられます。

京大安全ゼミ  最後に最近傍聴した厚生労働省が中心となって進めている「がん対策推進協議会」の動向を英国や米国の政策と比較しながら話しました。これは高木学校のこれからの活動とも関連することですが、政府は地方自治体に強く働きかけて、がん検診率を現在の13?27%から50%に引き上げようとしています。検診率が上がれば死亡率が減少するのかといえばその根拠は薄弱で、このことは1月に行われた高木学校市民講座で講演された岡田正彦先生が『がん検診の大罪』(新潮社)で指摘されています。この薄弱な根拠を基に肺がん検診だけでも年間七百万人以上が被ばくさせられるというのはどうしても納得できるものではありません。

 最後に、この安全ゼミで講演する機会を頂いたことによって、医療被ばくの冊子を活用下さっている方々と交流することができたのは大きな収穫でした。原子炉研の皆様にお礼を申し上げます。(写真は原子炉研のホームページより)

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シンポジウム「坂下栄さんのとりくんでいたこと」

中山靖隆(シンポジウム事務局)

 2月15日、東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区)で、シンポジウム「坂下栄さんのとりくんでいたこと」が開催された。2007年に69歳で急逝した坂下栄さんの、市民科学者としての長年の「とりくみ」を記録し、活用や継続を図ろうというもの。化学物質問題や生協、消費者運動関係者など約200人が参加した。

 内容は二部構成。第一部は「三重大教員」「生活クラブ」「野草庵」の三時代に、関わった人々による報告や寄稿紹介。第二部は「とりくみ」の活用や継続のための、問題提起と全体討論が行われた。

第一部

 坂下さんは、60年に三重大学医学部に就職。70年代、国は4大学に合洗成分の毒性研究を依頼。三重大は催奇形性を指摘したが、国は「合成洗剤安全説」を定説化。「人間を守るべき科学が、毒性を隠す権威に」と坂下さんは怒り、市販製品の塗布実験を続けた。皮膚障害は明白。害は肝臓にも強く及んでいた。「先生は、市民にわかりやすい方法で電子顕微鏡写真を撮りました。科学は誰のものかという態度を、受け継ぎたいと感じました」(K・Mさん/大学医学部教員)。

 運動との接点は、労働運動の婦人部発の合洗追放運動など。89年には、原子力発電をめぐる問題から大学を辞めた。男性主導型運動の対立性に失望もした。90年に生活クラブ生協に就職。後に生活クラブ連合会の検査室長となり、石けん運動の第一人者に。生協時代は「主婦にも科学的な視点を」と、メダカや糸ミミズ、貝割れ大根等を使い、各地の組合員と様々な実験を行った。「目の前で魚のエラから出血し、糸ミミズが破裂する様子は、私たちの目を覚まさせました」(組合員女性)。一緒に実験や講座を行った女性たちは、地域や自治体で成果も挙げている。報告は誇らしげであった。

 2000年には退職。山梨県大月市に転居し「環境科学オフィス・野草庵」を興した。以後は、講演や実験の継続、全国中高生の生殖異常やアレルギー調査、環境ホルモン、杉並病、カネミ油症、ベトナム枯れ葉剤被害児救済基金、地元の中学校での環境測定等々、休むことなく研究と活動を続けた。

第二部

 科学的な論争に耐えうる論理を磨き、科学は生活者のものであるという信念を行動で示した坂下さん。しかし、「坂下さんだからできた。今の女性研究者には厳しすぎる生き方…」(S・Sさんの問題提起)という現実もある。合成洗剤の体内挙動を動物実験で観るという、最後の「とりくみ」に共同で着手していた礒辺善成医師からは、「坂下さんの代わりはいない」「ネットワークしてその業績や意志を具体的に継ごう」。賛同する意見が相次いだ。

 また、自然派を名乗る「新しい合成洗剤」等への対応、若者や子どもたちへの対応、「独自」の調査の必要性等々。坂下さんに頼ってきた部分を「自分たちで担うには?」「どうすべきか?」という議論も。最後の「まとめ」では、示された課題についてシンポ実行委員会を母体にワーキンググループをつくり、具体案を参加者等に呼びかけることが確認された。



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