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高木学校通信 第62号(2009年5月28日 発行)

<目次>


4月の月例勉強会(4/26 北新宿生涯学習館)の報告
医療従事者における電離放射線被ばくのリスク評価

講師:木村真三(報告者:崎山比早子)

 高木学校ではこれまで、日本における検査による医療被ばくが世界でも突出して多い実態を一般に情報発信し、その原因を考えて、対策を提案してきました。医療被ばくが多い原因の一つに、医療従事者自身の、被ばくリスクに関する認識が薄いことが考えられます。医療従事者は放射線作業従事者の被ばくの中で一番多くなっています。しかし、これまでその詳細な調査が行われてこなかったために、実態は明らかではありません。患者の被ばくを減らす第一歩は、医療従事者が自らの被ばくについてその量とリスクを知ることです。

 講師の木村真三さんは元放医研の職員で、私の居た研究棟の隣の建物で実験しておられました。今号の別冊付録からも分かるとおり、彼は非常に行動的な研究者で、医療現場に何回も足を運び、医師、放射線技師、看護師の被ばく線量の計測をされています。4月の勉強会ではではその調査結果についてのお話しをうかがいしました。講演は質疑も含め3時間にわたりました。その内容は木村さんの別冊付録にありますから、ここでは要約のみを記します。なお、講演の前半に相当する部分は京都大学原子炉研の第106回原子力安全ゼミで講演されており、そのレジュメは http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/zemi.html にアップされています。

 日本における放射線作業従事者の数は2006年の調査では、45万人強であり、その中で医療従事者は23万人、原子力産業での従事者は8万人である。職業被ばくの線量限度は1年間で50ミリシーベルト(mSv)、5年間で100mSvを超えず、妊娠可能な女性については3ヶ月間で5mSv、妊娠中の女性の腹部表面は2mSvと規定されている。2006年度で、年間被ばく線量が10mSvを超えた医療従事者の数は733人で、職種別に見ると、診療放射線技師>医師>看護師の順である。

 被ばく低減方法を探るために、放射線作業ではどのような情況でどの部位にどの程度の被ばくを受けるのかを知る必要がある。そのために、図1に示すように、線量計を作業着の頭部、胸部、上腹部、下腹部の左右にそれぞれ1個ずつ、計8個と胸骨の部位にデジタル線量計を取り付けて作業毎に測定し、1ヵ月の積算線量を調べた。放射線防護服の遮蔽効果を調べるためには図2に示す位置で線量計を防護着の表と裏に取り付けて計測した。


図1 部位別被ばく線量計測


図2 防護着内外での被ばく線量計測

 透視を行いながらの医療行為では整形外科と循環器内科の被ばくが高いことがこれまで報告されているため、この両者について測定を行った。股関節の手術では5人の技師について測定した。部位別に見ると技師の被ばく線量は、頭部が一番高かった。被ばく線量は患者の体型、エックス線発生部の遮蔽や投影時間等によって左右される。手技によっては技師が患者を支えるためにエックス線の照射野に体が入ってしまうこともあり、そのような場合には直接被ばくとなり線量は非常に高くなる。

 エックス線透視下で血管造影や診断を行うIVRの場合、6人の医師について測定を行った。どの例においても被ばく線量は相当高かった。この場合には患者を寝かせて、ベッドの下にエックス線発生装置を置いて照射を行うため、術者の被ばくは下腹部が高く、片側だけで1ヵ月で1.5mSvを超えることもあった。防護服をつけると線量は約1/10に減少した。しかし、防護服はエプロン型であるため、立ち位置によっては防護されていない背部の被ばくが11.8mSvに達したことがあった。

 長時間の手術や検査を行う場合には散乱エックス線による被ばくも無視できない。空間線量を計測するために人型のファントムを用いてその中心からクモの網状にひもを張り巡らせ、そこに線量計を貼り付けた。このような測定の結果、防護衣を装着していない場合には標準的な術式で、術者は最大3mGy被ばくする可能性があることが分かった。

 以上がおおよその内容ですが、このように綿密に被ばく線量を計測した例はこれまでになく、これらのデータはこれから医療従事者の被ばくを低減してゆくために貴重であると考えられます。医療従事者が被ばくに注意を払うようになれば、患者の医療被ばくに対する認識も高まり、低減に向かう力になることが期待されます。しかし、計測を行った医療機関も限られており例数も充分ではないため、更に実態調査を進め、放射線防護の指針を作ってゆきたいと話しておられました。



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